Shirotama's Blog「ひつじのぼんぼり」

Archive for 11月 2012

指輪ホテル新作「あんなに愛しあったのに」に寄せて。瀬戸内国際芸術祭参加作品

愛した人もいたし、愛してくれた人もいたけれど、愛しあった人はいないの。と、女たちは言う。

しかしすでに、女たちは、この世に生まれ落ちる前に「愛しあう」ことを体験していたのだった。
そしてそれはひどく過酷なおそろしい時間だった。
女たちは「愛しあう」ことを体験してからこの世に生まれた。
前の世では、むごたらしくも愛しあう日々が続き、疲れ果て、力尽き、この世にひとりぼっちで生まれた。
愛しあった片割れのことなど、忘れたまま。

カレルは、海辺の洞窟に住んでいる。波と一緒にいちにち踊っている。
ルンバでもタンゴでもおなじ踊りのカレル。カレルが吠えると、海の鳥が降り立つ。
ルッタは、家に火を放ち、そこから500マイル泳いで溺れて、海辺にうちあげられた。
ルッタはカレルのタオルにくるまれた。何日かぶりの朝ご飯をぜんぶ食いらげた。
カレルとルッタはもうひとりの女をみつけた。
海に腰までつかり、右手をあげ「ヘイ!タクシー!」と叫んでいるタンジェであった。
この海辺での生活はきっと楽しくなるにちがいない。
生活のために必要な物を手に入れよう。鍋。釜。ミシン。ひきだし。物干し台。

前の世の忘れ去られた記憶は、女たちと過ごすことで、ねじまがりこんがらがって
やけに甘く切なく懐かしい思い出に焼き上がり、そして匂い立ち、蘇ってくる。
あんなに愛しあったのに。